読図技術の不足

中高年登山に限らず、山を登るときには老若男女・地図とコンパスは必携です(地図を持たなかったための遭難例)。

しかし、もし地図を持っていたとしても、そこから情報を見出す「読図技術」がなければ、せっかくの地図も意味を持ちません。この項では、読図技術の不足から遭難に至った事例を見てみましょう。

場所:富山県大品山
時期:3月下旬
メンバー:53~68歳の男性5人、女性2人。
行動概要:



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(快晴) 
大品山山頂を出発。トップのサブリーダがトレースに導かれてルートを誤り、登山道から外れた尾根を下ってしまう。この時、別のメンバーがコース取りに疑問を呈する(地図、GPSで確認)。

次第に斜面が急になり始め、ロープを出して下らなければならない所もでてくる。2~3度かなり厳しい下降をロープフィッ クスでやった後、ビバーク(不時露営)地点となる崖に遭遇。20~30m下方に林道らしき地形が確認できたが、陽がかげってきて薄暗くなっていること、ロープをフィックスする支点および足場の確保が難しいことなどを考え下降をあきらめ、より安全な場所への登り返しも不可能と判断しビバークを決定。

携帯電話が通じたので、クラブのメンバーの自宅に連絡、110番経由で富山県山岳警備隊へも事態と現在位置を知らせる。山岳警備隊から「現在位置動かず一晩がんばれ!明日早朝ヘリを出動させ、救出に向かう」との連絡を受ける。



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富山県消防防災ヘリにより全員ピックアップされ、ゴンドラリフト駐車場へ搬送される。


詳しい遭難報告はこちら
http://homepage1.nifty.com/toyamaHC/aebs27.html


この山行はハイキングクラブの読図訓練山行だったそうですが、道に迷い遭難してしまうという皮肉な結果になってしまいました。全員無事救助されたのは、不幸中の幸いでした。

この遭難に際してのパーティーリーダーのコメントに、「他の登山者の足跡を深追いし過ぎ、本来通るつもりだった尾根よりひとつ手前の尾根を下ってしまった」という言葉があります。

トレースを深追いしてしまうというのは道迷い遭難の典型ですが、「おかしい」と感じた時点で地図を開き現在地確認をするのは、基本中の基本。なにより、この山行は「読図訓練」だったわけですから・・・。

決定的なのは、赤字の「次第に斜面が急になり始め、ロープを出して下らなければならない所もでてきた」ところ。この時点でルートを誤ったことがほぼ決定的になったわけですから、地形図を広げて現在地確認すべきだったはずです。しかもGPSまで持っていた(もっとも文面から察するに、リーダーではなくメンバー個人の持ち物だったようです)のですから・・・。

そして、ルートを誤ったことを確認したら、とにかく今まで来た道を登りかえす。もし登り返しの道すらわからなくなってしまったら、その場でビバーク。これが道迷い遭難時の基本です。闇雲に歩き回り体力を消耗させてはいけません

ただ遭難報告書の文面からだけではわかりませんが、あるいは地図で現在地確認をしていた可能性も否定はできません。もしそうであれば、樹林帯で地形が見渡せず地形把握が難しかったであろうことを差し引いても、読図技術が未熟だった、というしかないでしょう・・・。

二万五千分の一地形図を読みこなす技術は、ハイキング以上の登山をする全てに登山者に必須の技術です。しっかり勉強しましょう。
山岳地形と読図 (ヤマケイ・テクニカルブック 登山技術全書)
(お勧めの一冊。地図と現場のカラー写真が対比されていて、非常にわかりやすく読図を勉強できます)

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