体力不足による遭難:北海道トムラウシ山

体力には、行動体力と防衛体力の2つの種類があります。

行動体力は、私達が一般的に「体力」として認識しているもので、重い荷物を担いで長時間歩ける、といったことが「行動体力がある」ということになります。

もう一つの「防衛体力」ですが、これは簡単に言えば「体調を維持するための力」で、「雨にぬれても体調を崩さない」といったことがこの防衛体力にあたります。

中高年になるとこの2つの体力がともに衰えてきますが、「防衛体力」の衰えは特に気付きにくいものなので、注意が必要です。

この項では、体力不足(行動・防衛両体力を含む)が原因で遭難に至った、北海道大雪山系トムラウシ山の遭難事故をみてみましょう。


tomura.jpg 場所:北海道大雪山系トムラウシ山
時期:7月初旬
メンバー:4人パーティー
(遭難者はリーダー格の方)
行動概要:






7月8日 旭岳温泉宿泊
7月9日 (曇り時々晴れ)
4人パーティーで入山。白雲岳非難小屋泊。
標準コースタイム7時間あまりの行程に10時間を要している。 非難小屋が混雑していたため睡眠不足になる。
7月10日 (薄曇のち、夕方から風雨が強くなる)
ヒサゴ沼非難小屋泊。
標準コースタイム8時間あまりの行程に11時間以上を要している。
7月11日 (風雨強し)
悪天候の中出発。トムラウシ岳山頂を巻いて下山する予定が、コースを間違え登頂してしまう。山頂から南沼キャンプ地への下りで、リーダー格の女性(以下遭難者)が転倒し負傷。転倒する前から、体調は既に悪化していたらしい。ここで遭難者は行動不能に。付き添い一人を残し、2人が下山。2人はビバーク。
*下山した2人も結局下りきれず、途中ビバーク。
7月12日 (雨)
先に下山した2人が、登山口にたどり着く。付き添いの1人も下山、遭難者は死亡。
7月13日 (曇時々雨)
遭難者をヘリで病院搬送、死亡確認。



詳しい遭難状況はこちらから
http://www.ne.jp/asahi/slowly-hike/daisetsuzan/02taisetudata/04sonanjiko/20020711-13tomuraushi.html


この遭難から得られる教訓

登山の計画を立てる際は、パーティーの体力(=一番弱い人の体力)に合わせて計画をたてるべきです。

この場合「行動体力」にばかり目が向けられがちですが、「防衛体力」も考慮に入れるべきです。もし睡眠不足の状況でも踏破できるか、体調が悪くなっても行動しきれる範囲か、そして天候が最悪の状況になっても自分の体力で下山しきれるか・・・。非常時になればなるほど、外科医が患者を見るような冷静な目で自分の、そしてメンバーの体調をチェックする必要があります。

遭難報告を見ると、相当歩くペースが遅かったことがうかがえ、計画に甘さがあったことがうかがえます。

7月11日の「トムラウシ山を巻いて下山する」という判断は、

・台風の北海道接近は翌日らしい
・天候回復の見通しが無い
・長引くと食料が足りない
・他のパーティの多くが下山開始

という点から見て、通常なら決して間違えと言える選択ではありません。ビバーク装備も持っていたとのことですし・・・。しかし「その行程を悪天候の中歩ききる体力が、その時点で残っていなかったことを自覚できなかった」ことが、最悪の事態に至った要因の一つと言えるでしょう。

ルートの性質上、進むか停滞するかの選択肢しかありませんでした。自分達の体力を客観的に把握できていれば、停滞という道を選択する(1~2日は何も食べないことになるにしても・・・)ことができたのではないでしょうか。

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