神々が宿る「魔の山」トムラウシ

大雪山系のトムラウシ登山ツアーが遭難する様子を描いたフィクションです。

ただフィクションとはなっていますが、2009年のトムラウシ山大量遭難事故を下敷きに書かれていることは明らかで、事実を基にフィクションとして小説的技工を施した作品、といえるでしょう。遭難現場の描写は非常にリアルで、緻密な取材に基づいて書かれていることが伺えます。

で、この本を読んで「ツアー登山」についていろいろ考えさせられるところがありましたので、その点について少し述べてみたいと思います。

悪天につかまり次々と客が行動不能に陥っていく場面は非常にリアルですが、自分があの場面に客としていたとして、はたしてどんな行動をとれたでしょうか。個人で登っていたのであればツエルトを使い避難体勢を整えるでしょうが、18人パーティーでバタバタとメンバーが倒れていく中、そんな人達を差し置き一人でツエルト避難はできないことでしょう。

避難が出来ないのであれば1秒でも早く、1メートルでも下に下山すべきですが、パーティー行動をしている以上、団体としての行動を放棄しなければそれもできません。

私個人的としては同程度、あるいはそれ以上に厳しい気象条件の山も経験しており、もし個人もしくは少人数の登山であれば自分の身を守るための対処のしようもあったと思います。が、こういう大人数ツアー登山の中で個々のメンバーが生き残るための行動をとるのは非常に難しい。こういう場面ではガイドの危険回避の力量が非常に問われます。

実は私自身も、昔これと同様のツアー登山に作中の伊藤ガイドのような立場で加わっていたので、非常に考えさせられる内容が多々ありました。

社団法人日本山岳ガイド協会の事故特別委員会が調査・作成した「トムラウシ山遭難事故報告書も、ぜひ見てほしい内容です。

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