遭難回避の知識・技術:カテゴリー

静加重・静移動と三点支持

登山時の歩き方の、基本中の基本。それが静加重・静移動と三点支持です。私も大学ワンゲルの新人時代、先輩に口を酸っぱくして叩き込まれました。

登山を始めて20年ほど。私は山で事故を起こしたことは、幸いにも一度もありませんが、その一番の理由がこの歩行技術だと思っています。

この静加重・静移動と三点支持が出来ていれば、山での滑落・転落事故もぐっと減ると思うのですが・・・それぐらい大切な技術です。

まず静加重・静移動ですが、街で普通に歩行しているときは、前足に着地と同時に重心もかかっています。しかしそれでは、もし前足が着地したときに異物があったり滑ったりすると、即転倒してしまいます。

山で歩くときは、1.まず前足を地面に体重をかけずに「置き」安全を確認、2.ひざの力を出来るだけ使わず重心をじわっと前に移動(後ろ足で地面を蹴らない)、その反動で前へ進む、これの繰り返しが静加重・静移動の歩き方です。

文字にすると難しそうですが、一度体が覚えてしまえば自然に歩けるようになります。

前足を「置く」時に息を吸い、重心をかけるときに吐く、(荷物が軽いときや低山では、もっと遅くてもいいと思います、マラソンと同じく規則正しい呼吸を繰り返すということです)この呼吸法を合わせると、非常にバテにくくもなりますし、ぜひ(必ず)マスターしてください。

三点支持は、岩場や鎖場などで重要な技術です。体には両手・両足の4つの支点がありますが、動かすのは常に一点だけ、残りの三点で安全を確保します。こうして岩場や鎖場を登れば、足や手を滑らせても滑落せずにすみます。

山で出会う方で、この「静加重・静移動と三点支持が出来ているな~」と思う人は、かなり少ないです。登山の基本中の基本、絶対に身に着けるべき技術ですので、街でも階段を意識して静加重・静移動で上ってみたり三点支持でその辺の木に上ってみたりして、ぜひ「考えなくても体が動く」ように練習してみてください。


GPSは登山に役に立つ?

GPSを携行する登山者も増えてきました。山で使っている方を、時々見かけます。

GPSは衛星の電波で現在位置を知ることができる装置ですが、読図ができない人でも現在地確認が簡単にできるとあって、普及し始めているようです。

私もGPS、持っていますが、登山で本当に役に立つのかというと・・・

やはり『コンパス+2万5千分の1地形図』が、山での現在地確認の基本だと思います。

「あんたは古い山屋だから」、と言われてしまえば、まあその通りなのですが(笑)、 日本山岳協会遭難対策委員会が指摘しているように、GPSは万能ではありません。

実際、GPSに頼っていたために道迷い遭難してしまった事例が報告されています。

私自身は、GPSはあくまでも読図の補助ツールとして利用するのが正解と思っています。

このGPSを歩行地図代わりにしている登山者もたまに見かけますが、平気で50メートルぐらい誤差が出てしまうこともあるし、私自身はこれに頼って歩く気がしません。遊びでログをとったりはしていますが、やはりメインは2万5千分の1地形図です。

せっかく何万円もするツールを買ったのですから、十分に使い倒したいと思うのは人情ですが、「壊れる」「バッテリー切れ」といった「使えなくなる」可能性が多分にあるデジタル機器、アウトドアでこれに頼るのはいかがなものでしょうか。

もちろん、登山でGPSは使えない、などと言うつもりはありません。濃霧にまかれて現在地がわからなくなってしまった場合など、GPSは大いに役立ってくれると思います。

「展望のない樹林帯で道迷い遭難してしまい救助を要請したい」などという場合にも、救助ヘリに現在地を知らせるのに有用でしょう。パーティーに1台、非常用としてGPSあれば安心なのは間違いありません。そのような意味で、私も登山にGPSを携行しています。

しかし目的はあくまで「補助」で、それ以上のものではない。過信は禁物。私見ですが、そのような意識は持って、GPSを使ったほうがいいと思います。

GPSフィールド活用ガイド

*最近はGPS内蔵のデジカメも発売されています。カメラとGPS、2つ持つ必要がないのでよさそうですね。

遭難対策訓練をしよう

100%安全な登山などあり得ません。100%安全なドライブ、絶対に危険のない海水浴・・・そういったものがあり得ないのと同じことです。

とはいえ、登山はドライブや海水浴よりは危ないのも確か。ですから、もしものときのために訓練をしておくことは、非常に大切です。山岳会などでは当然遭難訓練を実施しているでしょうが、極限状況の一端を「実際に生身で体験」しておくことは、非常に効果があります。


カモシカ山行

カモシカ山行とは、夜通し眠らずに歩く訓練です。遭難の現場では、夜間に行動をせざるを得ない状況というのも考えられます。そのような場合に備えての訓練です。

ルートのはっきりした、万一けが人が出た場合でもすぐに下山できるような低山で実施してみましょう。荷物は行動食+非常食、それにビバーク装備ぐらいの軽装で。

私が所属していた会では、毎年表丹沢で行っていました。夜に登山口に集合、無理をしないゆっくりペースで、兎に角朝まで歩ききります。


ボッカ訓練

読んで字のごとく、重い荷物を担いで歩く訓練。遭難発生時には、負傷者の荷物は他のメンバーで分担して担ぎます。私の会では、秋口に丹沢で実施。ノルマはアラフォーが(笑)30キロ以上。若者は40キロ以上。塔の岳の通称「バカ尾根」を、鍋装備を背負って(笑)登高。ザックの重さが足りない分は、その辺に転がっている石を詰める。塔の岳頂上で盛大に鍋パーティーを催し下山、という日程です。


ビバーク訓練

これも読んで字のごとく、ビバークの練習です。私は夏場に、日帰りできる沢をあえてビバークする山行をしています。ツエルト1枚のビバークを体験しておくことは、万一のビバークの際に心の余裕を生んでくれます。


読図訓練

地図の読図技術を磨くための訓練山行です。2万5千分の1地形図とコンパスを手に、山での景色とじ~っくり見比べてみましょう。景色というのは、遠くに見える山並みだけでなく、周辺の木の植生や地形なども含みます。登山道のある山より、決まった道のない低山の沢登りのほうがお勧めです(沢登りの技術が必要になりますが・・・)。山岳地形と読図 (ヤマケイ・テクニカルブック 登山技術全書)は必読書。地図と現場のカラー写真が対比されていて、非常にわかりやすく読図を勉強できます。


遭難対処訓練

大学時代はかなり綿密に計画を立てて行っていましたが、社会人になってからは・・・(反省)。

4年生が新人役を担当。シナリオを作り、行動中に熱射病で倒れてみたり、段差でわざとコケて捻挫したふりをしたり、テント場で鍋をひっくり返して(もちろん沸騰しないうちに・・・笑)やけどしてみたり。そしてリーダーの対処を見る、という訓練です。


といった具合に遭難訓練を行いますが、重要なのは、安全を確保した上で行うことです。遭難訓練で実際に遭難してしまったら、シャレになりませんので・・・。


熱中症とは

熱中症とは、日射病や熱射病などのことです。日射病や熱射病というと、そうたいしたことでもないように思われがちですが、実際は死亡率の高い、きわめて危険な状態ですので注意が必要です。実際に、多くの死亡事故事例があります。

熱中症はその症状により、1・日射病、2.熱痙攣、3.熱疲労、4.熱射病の4つに大別され、1→4と重症化します。

日本山岳協会山岳共済会が、「登山における熱中症 知っておこう危険なサインと対処法」(PDFファイル)を発行していますので、ぜひダウンロードの上ご一読ください。登山活動を主とした熱中症について、わかりやすい解説がなされています。

ダウンロード

*2009年夏山シーズンにも、多くの熱中症遭難が発生しています。北アルプス長野県側山域では、8月4日に白馬岳で19歳の男性が熱中症で行動不能になり、山岳遭難救助隊に救助されています。


低体温症とは

中高年登山者の遭難でよく耳にする言葉のひとつに、「低体温症」があります。読んで字のごとく、体温が生命活動を維持できないほどに下がってしまう症状です。凍死の一歩手前・・・といえば、イメージが掴みやすいかと思います。

低体温症は雪山のみで起こるわけではなく、夏山でも風雨にさられれることによって十分に起こりえます。実際に夏山でも多くの低体温症による死亡事例がありますから、特に森林限界を超える山では注意が必要です

また、低体温症を予防するには最新式素材の下着(撥水ドライレイヤー素材、メリノウールなど)が非常に有効です。濡れると極端に体温を奪う綿製の衣料は登山にはご法度ですから、注意してください。


以下、低体温症の対処法について、Wikipedeaより引用します。


症状によって、必要な対処法が異なる。慌てて手足を温めると、急激に心臓に負担が掛かって、ショック状態に陥る危険性があるので注意する。アルコール飲料は確かに体が温まるが眠気を誘い、余計に事態を悪化させる危険があるので避けるべきである。体の温まる甘い飲み物は効果的だが、意識がはっきりしていないと、飲み物で溺死する危険性があるので、意識障害が在る者には飲ませてはいけない。

対処法・基礎

風雨に晒されるような場所を避け、衣服が濡れている場合は、それらを乾いた暖かい衣類に替えさせ、暖かい毛布などで包む。衣類は緩やかで締め付けの少ない物が望ましい。脇の下やそけい部(又下)等の、太い血管(主に静脈)がある辺りを湯たんぽなどで暖め、ゆっくりと体の中心から温まるようにする。この時、無理に動かすと、手足の冷たくなった血液が、急激に内臓や心臓に送られる結果になるため、体を温めさせようとして運動させるのは逆効果であるので、安静とする。

対処法・軽度

とりあえずどんな方法ででも、体を温めるようにして、暖かい甘い飲み物をゆっくり与える。ただし目が醒めるようにとコーヒーやお茶の類いを与えると、利尿作用で脱水症状を起こすので避ける。アルコール類は体は火照るが、血管を広げて熱放射を増やし、さらには間脳の体温調節中枢を麻痺させて震えや代謝亢進などにより体温維持のための反応が起こりにくくなるため、絶対与えてはいけない。リラックスさせようとしてタバコを与えてはいけない。タバコにより末梢血管が縮小して、凍傷を起こす危険があるためである。この段階では、少々手荒に扱っても予後はいいので、出来るだけこの段階で対処すべきである。

対処法・中度

運動させたりすると、心臓に冷たい血液が戻って、心臓が異常を起こす事もあるので、出来るだけ安静に努める。急激に体の表面を暖めるとショック状態に陥る事があるので、みだりに暖めない。比較的穏やかに暖める事は可能であるが、裸で抱き合うと、体の表面を圧迫して余計な血流を心臓に送り込んで負担を掛けるので避けるべきである。同様の理由で手足のマッサージも行ってはいけない。とにかく安静にする必要があるので、風雨を避けられる場所に移動するにも、濡れた衣服を着替えさせるにも、介助者がしてやるようにし、出来るだけ当人には運動させないようにする。心室細動により非常に苦しむ事も在るが、心臓停止状態以外では、胸骨圧迫も危険であるため、してはならない。

対処法・重度

呼吸が停止しているか、または非常にゆっくりな場合は、人工呼吸を行って、呼吸を助ける。心臓停止状態にある場合は、胸骨圧迫を併用する。心臓が動き出したら胸骨圧迫を止め、人工呼吸を行う。この場合はマウス・トゥ・マウス式(仰向けに寝かせた要救護者の後頭部から首に掛けて手を宛がって持ち上げ、鼻をつまんで、介護者が口を使って、要介護者の口へ息を吹き込む・喉の奥に吐いた物が詰まっている場合は、これを取り除いてから行う)人工呼吸の方が、人間の吐息であるために暖められていて都合がよいとされる。



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