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遭難の現実と内幕

山で実際に遭難事故を起こして救助された場合、どんなことになるか知っていますか。特に、小さくても新聞沙汰になるような、世間の耳目を集める事故を起こしてしまった場合です。

まず、マスコミに徹底的に吊るしあげられます。彼らに「心」はありません。たかだか数行の記事のために、家族を始めとする関係者にかけられる取材攻勢・・・マスコミの常識は世の非常識とはよく言ったもので、その思考回路や言動は常軌を逸しています。さらに、ネット上を主な舞台にして一般人からボロクソに叩かれます。

私自身は救助隊のお世話になるような事故を起こしたことは幸いにもありませんが、若かりし頃は日本でもトップレベルの先鋭的な山岳会に所属し、まあそこそこにハードな登山をしていましたので、仲間や知り合いでは結構な数の大小の遭難(死亡事故も)が起きています。本人もそうですが、家族にかかる心労たるや言葉にできないものがありますね。

こういう内幕を目にする度に、遭難事故は決して起こしてはいけない・・・つくづくそう思います。山でのリスク管理は可能な限り万全を尽くしましょう、お互いに。


単独登山


単独登山・・・読んで字のごとく、パーティーを組まず、一人きりで山に登ることです。

人の好み問題もありますが、私自身は学生時代から単独登山は大好き、特に歩き主体の登山であれば圧倒的に一人のほうが私の好みに合っています。今ではもうできませんが、若いころは単独で厳冬期の岩場に挑んだりもしていました。

しかし、単独登山はパーティー登山より危険なのも事実。もし何か事故があった場合、自分一人の力で全てを処理しなければなりません。

単独登山とは、『山中で何があっても己の力で窮地を脱することが出来る』という技術と知識・経験から来る自信の裏付け、そして最悪の事態をも受け入れる覚悟があってはじめて許されるものだと、私は思っています。

全行程の概念図を何も見ずに描けるか、最深部で足を骨折し行動不能になった場合どう対処するか、それに対応できる装備と体力があるか、・・・これらの問いに答えられないなら、単独行はあなたにはまだ早いです。

しかし、登山中にクマに襲われ瀕死の重症・・・といった「運が悪いもらい事故」のような事態も、ないわけではありません。そういう場合に生死を分けるのが登山届。警察だけでなく、家族にも必ず出しておきましょう。

単独登山は、諸々のリスクを全て自分で背負う覚悟と自覚が必要。それがあるなら、ソロは山と向き合う最高の方法です。まず人の多いポピュラーな山から始め、自分の実力に合わせてステップ・バイ・ステップで登山者の少ない山、難易度の高いコースへ進んで行きましょう。


綿のウェアはナゼご法度?


登山で綿のウェアは危険です。

もちろん、登山専用ウェアを着なければ遭難してしまう、という意味ではありません。好天時の山登りなら、綿だろうと裸だろうと(笑)、危険など微塵も感じることなく山行は終わることでしょう。

ではなぜ危険かといえば、「何かあったとき」が問題だからです。夏山でも低体温症で遭難死する例は少なくありませんが、体温を奪う最大の要因は「濡れ」と「風」。雨で全身ずぶ濡れになり、そこへ吹きさらしの稜線の強風に吹かれ体温を奪われ、やがて行動不能になり・・・気象遭難の典型例です。

綿は繊維自体が水を多量に含み、しかも保水力が高く、濡れると乾きが遅いという特徴があります。登山用のインナーウェアはほぼ100%特殊素材の化繊、繊維の含水量がゼロで濡れてもすぐに乾くので、奪われる体温が最小限ですみます。

気化熱+強風による冷えは想像を絶するものがあります。20年以上前の私の大学ワンゲルでの初合宿でしたが、注文したウェアが間に合わず、1年生だった私たちは普段着の綿Tシャツに綿Yシャツを重ね着し、5月後半の八ヶ岳へ向かいました。そして雨に降られ、透湿性ゼロのハイパロン製レインウェアで全身ずぶ濡れとなったのですが、歯の根が合わないほどの寒さ・震えに襲われてました。

当時の先輩に聞くと、『お前は唇が真っ青になっていて、正直これはヤバイと思った』とのこと。底なしの体力があった当時の若さのお陰で幸運にも無事に(?)下山でき、今では酒の肴にもなっている話ですが、当時は登山初心者、冗談抜きに死ぬかと思いました。

ことさらに登山時のウェア、特に肌に直接触れるアンダーウェアは重要なもの。登山での動きやすさや耐久性が考慮された専用ウェアが絶対にお勧めです。

現在私が愛用しているのは、ファイントレック社の5レイヤリング・シリーズ。特に耐水撥水インナーは、ずぶ濡れになる沢登りで絶大な効果を実感しています。同社の「異次元ストレッチ」を謳うレインウエアも試してみましたが、蒸れ対策も万全で、かつ実に動きやすくて軽快・快適、日本の繊維産業の実力を感じます。少々お高いのが欠点ですが、いざというときには生命に関わることなので、金で買える安全なら積極的に買いたいもの。こういうところに使うお金は、決して無駄金にはなりません。

好日山荘などで取り扱っていますので、ご参考に。


登山用具と非常用品

震災直後の停電・節電等の混乱の中、山道具が役に立ったという方も、当サイトをご覧の方には多いのではないでしょうか。

関東在住の私も場合も、味付き乾燥米のジフィーズなど山用食料と、プリムスのガスコンロ、そしてローソクが大活躍してくれました。

このような災害時の非常用品の条件は、『火がなくても最低限の水で食べられる』と、『電気がなくても使える』です。そういう点で、やはり登山用具は優れていると改めて思いました。

家族が3日ぐらいは食いつなげる登山用食料を常備し、山行時にそこから持ち出して、後から買い足しておく。そうすれば、いざというときその食料が生命線となることでしょう。

登山装備を平時は非常用持ち出し袋にしておくのも、これまた大切です。


漁船から転落、救助まで3時間立ち泳ぎ

(12月)12日午前11時頃、漁船「天洋丸」(4・9トン)が、海岸で座礁しているのを近くにいた漁船が発見し、海上保安部に通報した。

 船長(35)の姿が見あたらなかったため、同海保などが周辺を捜索し、約2時間後、同海岸の南西約8キロ沖で漂流しているところを別の漁船が見つけた。病院に運ばれ、低体温症と診断されたが、命に別条はないという。

 同海保によると、午前10時頃に漁網に付いたロープが足に絡み、海に転落。かっぱと長靴を脱ぎ、長袖シャツとズボン姿で約3時間、立ち泳ぎを続けていたという。船は自動操舵(そうだ)のため、同町の海岸に向かって進み、座礁した。

 「約1キロ先の島まで泳ごうとしたが、海流が逆だったため、体力を温存しようと立ち泳ぎをして救助を待った」と話しているという。

(2010年12月12日付 読売新聞より引用・一部改変)



山ではなく海での遭難ですが、海でも山でも遭難時の原則は同じですね。落ち着いた行動と「体力を温存」したのが、助かった最大の原因でしょう。

船から転落すれば、普通はパニックになり船を追いかけるなり海流に逆らって岸へ向かい泳いでしまうなどするものです。が、かっぱと長靴を脱いで3時間立ち泳ぎ・・・さすがは海の男、素晴らしい判断です。

特に1キロ先に島が見えていたのに(海流を見極めて)そちらへ泳ぐことをしなかった、というのは、「こんなあっさりと書かないでください、読売新聞さん!」と声を大にして言いたいぐらいです(笑)。

例えば山で道迷い遭難し、はるか向こうの山麓方面に林道が見えたとしたら、どうしてもそちらに向かって歩こうとしてしまうでことしょう。あなたも胸に手を当てて想像してみてください。

が、これがやばいんですよねぇ。

船長さんの判断、本当に素晴らしいです。



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