山の読書案内:カテゴリー

たった一人の生還― 「たか号」漂流二十七日間の闘い

遭難という極限状況に冷静に対処するには、『実際の極限状況の体験』が何よりも大切です。レスキュー隊員や自衛隊の救難隊員などの遭難対応のプロフェッショナル達は、まさに死と隣り合わせの壮絶過酷な訓練を日々積んでいます。

むろん我々一般人が実際に自分を極限状況に追い込むのは難しいですが、死の淵から実際に生還された方の貴重な手記を読み、疑似体験を積むことはできます。

この手記は海難事故による漂流体験を綴ったものですが、まさに壮絶の一言。書中に救助直後と近況の筆者の写真がありますが、その全く別人と言ってよいほどの姿の違いが、いかに過酷な体験だったかを雄弁に物語っています。

忘れてしまいたいであろう地獄の体験を、こうして書物に残して下さったことには感謝しなければなりません。

山岳遭難についての本ではありませんが、山に登る人はぜひ一読をお勧めしたい一冊です。


神々が宿る「魔の山」トムラウシ

大雪山系のトムラウシ登山ツアーが遭難する様子を描いたフィクションです。

ただフィクションとはなっていますが、2009年のトムラウシ山大量遭難事故を下敷きに書かれていることは明らかで、事実を基にフィクションとして小説的技工を施した作品、といえるでしょう。遭難現場の描写は非常にリアルで、緻密な取材に基づいて書かれていることが伺えます。

で、この本を読んで「ツアー登山」についていろいろ考えさせられるところがありましたので、その点について少し述べてみたいと思います。

悪天につかまり次々と客が行動不能に陥っていく場面は非常にリアルですが、自分があの場面に客としていたとして、はたしてどんな行動をとれたでしょうか。個人で登っていたのであればツエルトを使い避難体勢を整えるでしょうが、18人パーティーでバタバタとメンバーが倒れていく中、そんな人達を差し置き一人でツエルト避難はできないことでしょう。

避難が出来ないのであれば1秒でも早く、1メートルでも下に下山すべきですが、パーティー行動をしている以上、団体としての行動を放棄しなければそれもできません。

私個人的としては同程度、あるいはそれ以上に厳しい気象条件の山も経験しており、もし個人もしくは少人数の登山であれば自分の身を守るための対処のしようもあったと思います。が、こういう大人数ツアー登山の中で個々のメンバーが生き残るための行動をとるのは非常に難しい。こういう場面ではガイドの危険回避の力量が非常に問われます。

実は私自身も、昔これと同様のツアー登山に作中の伊藤ガイドのような立場で加わっていたので、非常に考えさせられる内容が多々ありました。

社団法人日本山岳ガイド協会の事故特別委員会が調査・作成した「トムラウシ山遭難事故報告書も、ぜひ見てほしい内容です。


ドキュメント生還-山岳遭難からの救出

絶体絶命の状況に追い込まれた遭難者が、何を考えどう行動したのか。その結果として力尽きて死んでいく者と九死に一生を得る者との差はどこにあるのか。生きて帰ることのできた者は、どのようにして生をつなぎとめていたのか・・・・・・。

実際に遭難から生還した8つのケースを、事の起こりから命からがら救助されるまで、遭難者自身へのインタビューも交え、詳しく解説しています。

生と死を分けたもの・・・。ある人は「偶然もっていたお土産のわさびマヨネーズ」であったり、「たまたま家族に知らせていた行動計画」であったりするわけですが、最終的には例外なく、「いたずらに動き回って体力を消耗するのではなく、一か所にとどまってジッと救助を待ったこと」が生還の決め手となっています。

遭難の前段階から決定的なラインを超えてしまうまでには、精神的なファクターも大きく関わってきます。そして、遭難状態に至るまで、さらにそこから救助されるまでの思考の過程は、当事者になってみなければ分かりません。そういう意味で、この本は登山をする方全てが知っておくべき、多くの示唆があります。


「岳」というマンガ があります。

若くして世界の巨峰を登頂した後、ボランティアで山岳救助をする主人公・島崎三歩。彼を中心に山の美しさや厳しさ、人間模様を描いた作品です。映画化もされましたので、ご存じの方も多いのでは。

山岳物の漫画はたいてい登山の素人がろくな取材もせず描いているので、登山を知っている人間の目から見るとどうしようもない駄作ばかりですが・・・この岳は作者もクライミングをする人だけあり非常によくできています(映画版はクソでしたが)。

マンガにありがちな、人間離れした超人によるスーパーレスキューというものはなく、非常に現実的なストーリーで、山での悲惨な遭難現場も淡々と、かつ生々しく描写していいます。が、どこか温かみと救いのあるストーリー立て、数々の名セリフが胸に迫る秀作ですね。Amazonのカスタマーレビューでも高評価が並んでいます。

悲惨な現実をこれでもかとばかりに見せつけながらも、「やっぱり山っていいよなぁ」と感じさせてくれる作品、ただのマンガと侮る無かれ、ぜひ山を愛する多くの人に読んでもらいたいです。



救助隊から見た遭難の現実

山と渓谷社の「県警山岳山岳警備・救助隊」シリーズ。少し古い本になってしまいましたが、登山を愛好する方にはぜひ一読してほしい本です。

現役の警察官(救助隊員)の方々が遭難救助の体験談を語るというものですが、生々しい遭難現場の現実やその裏側、救助隊員の方々の葛藤など、胸に迫るものがあります。

遭難回避の技術を解説したハウツー本ではありませんが、山岳遭難を救助する側から見た秀作です。『山で決して遭難事故を起こしてはならない』という気持ちを新たにさせられる本です。

岐阜県警山岳警備隊編:山靴を履いたお巡りさん―北アルプス飛騨側を護る山男たちの手記

富山県警察山岳警備隊編:ピッケルを持ったお巡りさん―登頂なきアルピニストたちの二十年

長野県警察山岳遭難救助隊編: ザイルをかついだお巡りさん―アルプスに賭ける警察官 喜びと悲しみのドラマ



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