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気象遭難(濃霧):前大日岳での事故事例

このように、悪天候が原因で行動ができなくなった場合の大原則は、その場でビバークも覚悟の上で、天候の回復を待つこと、です。
それではここで、濃霧で視界が効かない中を闇雲に動き回ってしまったために、遭難してしまった例を見てみましょう。
場所:北アルプス前衛峰・前大日岳(富山県)
時期:5月の連休
行動概要:
4月27日 | 単独日帰りの予定で入山。 8時48分、早乙女岳登頂。視界良好。 9時50分、前大日岳登頂。直前からガスが出始める。 10時、下山開始。直後から足元も見えないほどのガスに包まれる。パニック状態の中で、闇雲に下山するが、完全に道を失い、戻るのが不可能な谷に降り立ってしまう。 4時半ごろ、沢を下る中で、流される。奇跡的に雪渓の上に這い上がり、ビバーク。 |
4月28日 | 5時半ごろ、ヘリ救助を期待し、右岸の山に登高。ヘリのホバーリングが可能な地点まで登る。 9時20分ごろ:県警ヘリにて救助 |
詳しい遭難報告はこちら
http://www.ctt.ne.jp/~jijii/020427sounan.htm
全身ずぶ濡れ、食料もビバーク装具もなし(携行はしていたが、沢で流され紛失)の5月の山でビバークし助かったのは、奇跡に近いものがあります(詳細は上記遭難報告書をご覧ください)。
遭難に至る原因はいろいろありますが、根本的に、「悪天候が原因で行動ができなくなった場合は、その場でビバークも覚悟の上で、天候の回復を待つ」という原則を守れば防げたであろう事故です。ガスに巻かれ行動不能になったその場でビバークしていれば、命に危険が及ぶことはなかった可能性が高いです。
パニック状態になり、闇雲に行動(下山)してしまったがゆえに、助かったことが奇跡とも言えるビバークをすることになってしまいました。
~この遭難から得られる教訓~
遭難報告書の文面から、遭難された方はかなり豊富な登山の経験があることが伺えます。しかしその経験豊富なベテランにして、パニック状態になると適切な判断ができなくなることがわかります。遭難を自覚したときの大原則は、『パニックにならない。また、パニック状態になっていると少しでも自覚したら、その場で己の行動を禁止すること』です。実はこれこそが、『言うは易し、行なうは難し』なのですが・・・。
また、奇跡的に助かった要因を考察してみます。
1.留守宅に登山計画を残していた。結果として、捜索が効率的に行われた。
2.装備がしっかりしていた。途中沢でザックを流されてしまったが、もしピッケルがなければ、沢から這い上がることができず、死んでいた可能性が大。
3.速乾性の新素材の下着を着ていた。これがなければ、ビバークで凍死していたと思われる。
4.山の知識がかなりあった。現在地を推測したり、テープの場所まで登り返したり、食べられそうな草花を見分けたりと、パニック状態にしてはかなり冷静な判断をしていた。豊富な経験が伺える。
5.遭難初期に、「道に迷ったようだ」と携帯電話で家に連絡している。このおかげで、捜索の初動が早かった。
6.ビバーク翌日、冷静に自分の体の状態を分析し、ヘリ救助を受けるために全力を傾けている。もし無理をして行動して(下って)いれば、死んでいた可能性大。
最後に。
止まない雨はない、晴れないガスはない。雨が止むまで、霧が晴れるまで待つ!たとえ下山が遅れ多少の迷惑をかけようとも、死んでしまうよりはずっとましです。
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